破倫館

倫理的人生

アニメOPにおける代替可能性/並列の表現(マッチ・カット) -『カイバ』とか『冴えカノ』とか

湯浅政明監督による2008年のTVシリーズカイバ』がすごくいい。

肉体や記憶を売買・換装できるようになった世界を、ファンタジー的なタッチで描く。

主人公カイバ自身も肉体を乗り換えて旅をしながら、その中で様々な人間のドラマを目撃していく。キャラデザも相まって手塚治虫の『火の鳥』を彷彿とさせる。

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映画『ファニーゲーム』感想と雑記

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ファニーゲーム』(ミヒャエル・ハネケ監督、1997年)

すごい。「無慈悲で純粋な暴力」を描いた映画かと思いきや、終盤にはこの映画そのものが「暴力」へと転身する。ハネケにとっての標的は観客。
本当に最悪な気分。
こんなに途中で観るのを止めたくなる映画を他に知らない……。

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映画『恐怖分子(Terrorizers)』はフィクションに対するテロリズムだ

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 エドワード・ヤン監督による台湾映画『恐怖分子』について語る前に、やや面倒な回り道をしよう。この作品はまったく難解ではないにせよ、台湾の一つの時代・瞬間を活写し、歴史的要請を強く反映したものである点にはほとんど疑う余地がない。そのため、台湾という特殊な地域の政治史的/映画史的経緯について少しでも確認しておくことは、この映画を読むにさいして大いに役立つはずである。

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朝汀

 黒曜石の断面のような水面が重く横たわっていた。その先端は鋭く光って、淡く煙った夜空を拒んでいるみたいに切り立つ水平線。吐く息は濁った黒になる冬の夜、
 しきりに鳴る電話の着信を切った。
「一五九二〇〇〇〇、」
 首都高速湾岸線、高架のへりを歩く浅未のお尻でスカートが浮き沈みをする。マニキュアの光沢が時速百キロのヘッドライトに照らされて鋭利。私を振り返るその横顔の睫も濡れたみたいに蠱惑的。
 十七歳。浅未は完璧だった。

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無題

何か面白いことになるかなと思って賞味期限切れ未開封の牛乳パックを部屋に置いて観察していたのだけど、結局一ヶ月ほど過ぎて何もなくて、ああなんだと思って捨てた。洗い物の溜まったシンクに流した。

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『たのしい自殺のやりかた』

 死にたくても死ねない。二階建てアパートの一階に住んでいて飛び降りには向かないし、首を吊るにも丁度良い梁がない。そんなふうに言い訳をする癖ばかりついて気付けば二十代も後半、ようやく俺一人では死ねそうにないと思い至った。人間、自殺をするにも知識と明確なビジョンが必要なのだ。

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