アニメOPにおける代替可能性/並列の表現(マッチ・カット) -『カイバ』とか『冴えカノ』とか
湯浅政明監督による2008年のTVシリーズ『カイバ』がすごくいい。
肉体や記憶を売買・換装できるようになった世界を、ファンタジー的なタッチで描く。
主人公カイバ自身も肉体を乗り換えて旅をしながら、その中で様々な人間のドラマを目撃していく。キャラデザも相まって手塚治虫の『火の鳥』を彷彿とさせる。
カイバのまなざしは淡々としているのに、胸に切々と迫るものがあるのは何故だろう。
全身を義体と呼ばれるサイボーグに換装可能となった未来を描いた『攻殻機動隊』において、アイデンティティの問題は最も大きな主題だった。
当然、『カイバ』においてもその問題はつきまとう。
『カイバ』OP
登場人物が手を伸ばし、手を取り合い、握った掌を自らの内に抱きしめるような動きを、パチパチ入れ替えていく演出。
こういう被写体の形状や大きさ、動きなどの類似した被写体のカットをつなぐ演出が「マッチ・カット」。
曲もむちゃくちゃいいんですよ~これが。
ここでは肉体や記憶が換装可能であるという設定を端的に描きつつ、深く包み込むような愛情をも織り込んでいる。あまりにも秀逸……。
自己と他者をもひっくるめて抱きしめるような情愛、深い自己愛は他者愛にも繋がるということを表しているのかなとか考えましたが、その解釈は私の価値観に寄せすぎかな。
カイバOPでは設定上の「代替可能性」を表現していたが、実は似たような演出はけっこう存在する。
いわゆる「ハーレムもの」と呼ばれるジャンルにおいてそれは顕著だ。
『冴えない彼女の育てかた』1期OP
まずは序の口。『冴えない彼女の育てかた』1期のOP。
指を高く掲げるというシンプルなワンモーションを4人のヒロインでパチパチと切り替えていく演出。
ここでは分かりやすく、ヒロインが並列に扱われている。
(厳密に言えば冴えカノはギャルゲじゃないけど、)ヒロインを選択肢的に提示するギャルゲっぽい価値観。
ただし、メインヒロイン*1であるところの加藤恵が最後に「目を閉じる」という固有のモーションをとるところにも注目。ささやかに差別化されていることが分かる。
登場人物を並列化させることで、むしろ際立たせたいものを差別化させるという技法。
冴えカノ大好きなので2期の話もしていいですか?
します。
2期『冴えない彼女の育てかた♭』OP
1期とは異なり、OP・ED職人の石浜真史さんが演出。
カイバと冴えカノ1期OPのマッチ・カットでは「動き」によってカットの連続性を保っていたけど、これは違う。
ここで連続性を保っているのは、キャラクターの「視線」。
加藤さんが鏡を見つめるカットから始まって、キャラがワイプアウトしながら切り替わり、ポーズは様々ながらも視線が共通しているので連続感がある。
視線が意図的にカメラから外されていて、全体的に低い彩度でアンニュイな空気感がいい。瞳+αにだけ部分的に色が使われている。
やはり「目と視線」に印象を残しつつ、1期ほどあからさまではないにしても「並列」の表現は引き継がれている。
そしてやはり、ここにも差別化がある。
切り替わる視線の最後に、加藤さんの鏡越しのカットが再び。
そしてここで加藤さんが視線を動かして、鏡越しに初めてカメラと目が合う!
鏡越し、ってところが奥ゆかしい。
加藤恵がメインヒロインである、ということがささやかに伝わる秀逸な演出。
最後にレジェンド級のクソヤベーマッチカットを。
『魔法先生ネギま!』1期OP
現在放送中の『UQ HOLDER!』ではこのOP曲『ハッピー☆マテリアル』のカバー曲が使われたことで話題になっていましたね。
サビの間中ずっとネギくんが女性徒たちとキスしまくるというクソヤベーOP映像ですが、この演出は面白い。
とにかく多いヒロインを捌いて紹介していくだけのようにも見えるが、ヒロインのキス顔はどれも微妙に差別化されていて、しかもキスに対するネギくんの反応も様々なので、単なるヒロイン紹介ではなくネギくんとの関係性まで描いているところがポイント高い。
こだわりを感じる。
ちなみに25分間ずっと『ハッピー☆マテリアル』のバージョン違いが流れ続ける公式動画がある。
まとめ
単純にマッチ・カットという演出が好きなんですけど、『カイバ』みたいなSF設定で使われる演出がハーレムもので使われるのは面白いなーと思って挙げてみました。演出意図から作品を読み解くというのは楽しい。
他にもたくさんOPにおけるマッチ・カットはあると思いますし(もっと挙げたかったけどあまり思い出せなかった)、知ってる人がいたら教えてください~~~!!!
ちなみに現在『カイバ』がNetflixで配信中*2なので、みんな観ましょう。
みんなが観ないと消えてしまう可能性があるので、思い立ったが吉日。
※この記事は旧ブログ記事とほぼ同様のものです。