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倫理的人生

『RELEASE THE SPYCE』7話 感想 「友達」ってなんなんだ

リリスパ、EPISODE:007 「初芽より愛をこめて」の感想。

今期、地味に『SSSS.GRIDMAN』の次くらいに推してる作品ですが、その中でも今回は特に面白かった。「誰とでも友達になれる」という初芽がただの愛嬌おっとり少女などではなく、友達になることに異常なまでの執念を抱いているという一面を描いた回。むちゃくちゃ怖かったです。

そもそもリリスパがどういう作品かというと、女子高生スパイ集団のクライムサスペンス&日常モノ*1という感じ。スパイ組織といっても、町にはびこる悪の組織と戦う自警団のようなもの。

この作品のすごいところは、主人公・源モモがチームにスカウトされる1話のラストで「この中に内通者がいる」と語られるにも関わらず、それ以降のエピソードで各キャラクターに焦点を当てながらそれぞれの魅力を引き出し、みんな仲良し日常シーンが積み重ねられていくという構成になっているところ。

だから、日常シーンにも常に緊張がある。各キャラクターも内通者の存在には気付いているにも関わらず、今のところはまだ疑心暗鬼の感情にも蓋をしているような印象を受ける。この1話がとにかく秀逸で、これがあるのとないのとでは全くこの作品の見え方が変わってくる。

 

そして7話はスパイ集団メンバーの一人、青葉初芽に焦点が当たる回になっています。

 

~7話あらすじ

スパイ組織「ツキカゲ」メンバーの一人、青葉初芽。彼女の前に、テレジアという少女が転校してくる。二人は幼少期に、ある犯罪に巻き込まれて接触しており、そこから久々の再会を果たすことになった。初芽は彼女と再び友達になろうとする。

しかし、実はテレジアはツキカゲと敵対する犯罪組織「モウリョウ」のメンバーで、ツキカゲの情報を手に入れるために初芽に接触したのであった。初芽はそのことに気付いているのか、いないのか。

そして同じ時、仲良くしている初芽とテレジアを傍目に、初芽の弟子である石川五恵は「もっと自分のことを見てほしい」という気持ちを抑えて寂しげに笑う。そんな状況のなか、モウリョウの事件に巻き込まれて……。

 

ベストシーンの話から。

「動けなくなったら私がお世話してあげますね。ずっと、ずーっと友達ですから」の笑顔が怖い。友達になるためと言いつつも駆け引きを持ちかけたり、テーブルの下で毒針を刺したりもする。表面的にはサイコ的ヤバさなんだけど、同時に純粋な愛情もあるという……。

二枚舌のようにも思えるけど、これはこれで一貫している。「友達になる/である」ことと、「自分がスパイで相手が敵である」ということとが初芽のなかで矛盾していないという過激さ。

むしろそういう人間だからこそ、状況に合わせて立場を自在に変えるようなスパイには向いているのだろうと思えて、意外なところから納得させられてしまった。

 

『やがて君になる』では告白が「私はこういうあなただから好きだ」という束縛の言葉として描かれるけど、リリスパ7話における「大好きです」は、もうちょっと意味合いが違う。

初芽のその言葉は、「今のあなた」は「私が好きになったあなた」ではない、それでも構わず受け容れる――という意思表示で、それだけなら束縛の言葉になるのかもしれない。

しかし、その一方で五恵自身にとっての「理想の自分」は、「初芽が好きになった五恵」と一致している。なりたい自分になることと、初芽に好きでいてもらうこととが方向性としては同じなのだ。

そして、初芽はそのことを理解したうえで、五恵に対して「大好きです」と伝えたように見える。この二人の込み入った関係性が、その一瞬で鮮やかに示される。

エモーショナルな場面でありながら、発言そのものは非常に理詰めで、このシーン自体が青葉初芽を象徴しているように思う。

 

 

しかしちょっと待て。

そもそも友達ってなんなんだ、と思う。初芽の言うそれって友達なのか。

初芽に関して言えば「友達」という言葉が彼女の狂気を覆うオブラートとして機能しているが、それを彼女自身が自覚しているのかどうかは分からない。

誰とでも理解し合える人間なんているわけがない。しかしそれを初芽は信じている、少なくともそのために努力を惜しまない。

キズナアイか?

今回のエピソードでは、初芽とテレジアが再会し親交を温めるそばで、五恵は初芽に構ってもらえず、寂しさや嫉妬を感じていた。まさにその五恵の不満が、初芽が“誰とでも友達になろうとする”ことによって生じる歪みでもある

そのジレンマに対する一応の解決としては、7話の最後で初芽による「大好きです」という言葉が与えられている(しかしそれも根本的な問題の解消にはなっていないのだけど)。

つまり「(みんなと友達になりたい、その中でもあなたのことが特別に)大好きです」

単純かつ強力なソリューション、ではあるが……。

なんてこった。初芽にとっての「友達」概念がよくわからないままにして「友達以上」概念が与えられてしまった……。

今のところ、初芽と五恵の師弟関係が作中で一番癖がある気がします。好き。

 

 

作画面でもこの7話は相当いい。

自我喪失してリミッター解除状態の五恵ちゃんが、ヤクザの組一つ壊滅させるくだりのアクションはさすが。動きの魅力はもちろん、サウンドトラックと映像が同期している快楽がある。1話の超テンポ演出を思い出す。

なおミニスカートから足技をがんがん繰り出すが、大事なところは見えない。

 

あと、話数の表記が三桁なのは今回の「007」がやりたかっただけですよね?

「初芽より愛をこめて」も007の映画二作目『007 ロシアより愛をこめて』が元ネタでしょう。私は観てませんが……。

*1:公式によると「女子高生×スパイアクション」。